お気に入りをとことん使う (野口光さん)

前回前々回の記事で紹介したくつしたの補修技術「ダーニング」。昨今在宅時間が増えてきたことや、環境問題を考える機会が多くなってきたこともあり、手芸屋さんなどでは特設コーナーができるほど注目されている技法である。
ダーニングはどんな衣類にでも活用できるが、くつしたは傷みが生じやすいということ、あとは、もっとくつしたに愛着も抱いてもらえたら、という想いでこのテクニックを紹介した。

動画の制作に協力してくれたのは、テキスタイルデザイナーとして活躍しながらもダーニングの普及活動を行っている野口光さん。彼女の話を聞けば、きっとお気に入りのくつしたをもっともっと楽しめるのではないかと思う。

テキスタイルデザイナー 野口光さん

野口さんがダーニングに出会ったのは本場イギリスで、デザイナー仲間のレイチェル・マフューさんが商う毛糸屋さんでディスプレイされたダーニングマッシュルームを見つけ、それが繕い(ダーニング)に使うものだと知ったときだった。もともとお祖父さんが骨董品好きで、ご両親も「ものを修理して長く使う」ことを大事にしていた環境で生まれ育った野口さんにとって、毎シーズン新しいデザインを発表し続けるファッションの現場で感じる違和感から自身の価値観を肯定できるきっかけがダーニングだった。
本業の合間に繕うことを楽しみつつ、人に教えるようになってからは8年もの年月が経っているそうで、日本国内でダーニングについて調べようとすると必ず野口さんの情報にたどり着くのだから第一人者と言っても過言ではない。

そんな野口さんがどんなくつしたを履いているのか聞いてみた。
「とにかくハイソックスが好きです。パンツの裾とくつしたの隙間の肌が見えるのが嫌なので、暑い時期を除いて基本ハイソックスですね。
思い起こせば、高校生の時にくつしたのずれ落ちを防ぐためにソックタッチ(くつしたのずれ落ちを防ぐ糊状の化粧品)を使用してかぶれて色素沈着してしまったこともあり…。大学生の頃からずれ落ちにくいハイソックスを愛用するようになりました。」

このハイソックスへのこだわりが、野口さんのダーニングライフにおいて忘れられない思い出を作った。野口さんは南アフリカに15年ほど暮らしていた時期があるのだが、現地ではハイソックスが売られていなかったのだ。今ほどオンラインショップも普及していなかったため、イギリスや日本へ行く機会にまとめて購入するしかなかった。そのため、手持ちのハイソックスが傷んだらダーニングして使う、また穴があけばダーニングする、を繰り返していたそう。買い換えるなんてできない。だから目の前にあるくつしたに延命治療を施し、大事に使った。

今でもくつしたには1シーズンに2回ほど繕い、長いものでは5年ほど使用しているというのだから、そこまで使い続けられたくつしたは幸せだろうなと思う。
「ダーニングの講座に来る生徒さんの中にもくつしたを持ってくる人がたくさんいます。登山用のものや、血栓防止の医療用のものだったり、お子さんのサッカー用のくつしたなど、ちょっと専門的な使い方をするくつしただとすぐには捨てられませんよね。あと、安くてどこにでもあるようなくつしたでも履き心地が気に入っているから直して使いたいという方もいます。生活背景に関係なく、“大事に自分らしく使いたい”という気持ちでくつしたをダーニングをしてくれる方はたくさんいらっしゃいますよ」

今では“消耗品”として傷みが見えたら捨てられてしまうことが多いくつしたも、こうやってリペアすることが当たり前になれば、買うときの選び方、向き合い方も変わるだろう。野口さんの話を聞いた後、一人でも多くの人にこんな風にお気に入りのくつしたをもっと楽しんでもらえたらいいなと思った。

テキスタイルデザイナー
野口光さん

自身のニットブランドを運営する傍ら、近年では日本国内外のダーニングの火付け役として、書籍の出版や教室を開催。オリジナルのダーニングマッシュルームやステッチ糸なども手掛けている。

オンラインやインスタライブなどでもテクニックを披露してくれているので、ダーニングにトライしてみたい方はぜひ野口さんの活動をチェックしてみて!
ホームページ : https://darning.net
インスタグラム : @hikaru_noguchi_design

※掲載内容は、すべて記事掲載当時の情報となります。

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