職人の熱意と誠意と (株式会社野瀬ソックシステム)

ナイガイを語るときに絶対に外せない商品がある。1955年から売れ続けているルームソックスの先駆け、ハマグリパイルソックスだ。 そして、それを作っている工場が奈良県にある。気候が良い、秋の日に訪れてみた。

株式会社野瀬ソックシステム/広陵町(奈良県)

今でこそ多くの企業がDX化を取り入れるが、周囲の工場よりも先駆けてシステムを導入、徹底した在庫管理を行うことで原料のロスを減らし、無駄のない高品質なくつしたづくりを行っている。生産の管理をしっかりと行うことで、多品種小ロットを実現してきた。

くつしたは機能に限らず、時代のトレンドが反映される商品。海外でつくられる物が増えていく中で、こうした取り組みが評価されて今も多くの国内メーカーからくつしたづくりを依頼されている。
そして、設備を常により良い状態を保つ姿勢を持ち続けてくれたこの工場のおかげで、ハマグリパイルソックスが存続していると言っても過言ではない。
この60年以上の時代の変化とともに生産する工場も変わり、現在は野瀬ソックシステムがハマグリパイルソックスの歴史をつなぎ編み立ててくれている。

作り方のマニュアルさえ存在していれば、場所が変わることは単純なことかと思われるかもしれない。しかし、そんなにくつしたづくりは甘いものではない。編み機もその時代によって手に入るものは異なるし、素材だって常に同じものがあるわけではないのだ。
過去のプロトタイプ(写真左)に合わせて、全く異なる環境で現行品(写真右)を作り上げてくれたわけであるが、その苦労を引き受けてくれたのは自信の表れでもあったのかもしれない。
編み機も過去に使われていたイギリス製のものから日本製、今ではイタリア製のものへと変わり、冷たい床から足を守るためのしっかりとした厚さのパイルを編み立てるために機械の部品を変え、更には生産の合理化のために編み立ての針数を4割増やしつつも履き心地の良さは守っていったのだから(むしろ、よりふかふかに!)、それは職人のプライドを感じさせられる。
そして、ハマグリパイルソックスの特徴でもある履き口のハマグリ刺繍。
この刺繍ができるミシンメーカーはすでに廃業しており、ミシンが壊れてしまえばもう二度とこの愛らしい貝の形を表現することはできないというのだから、日々刺繍を続けている職人さんも気が気ではないだろう。

それでも、淡々と作業を続ける姿は職人魂とでも言えばよいだろうか。美しい手仕事に魅せられてしまった。
そんなプロの集団による熱意に満ち溢れた場所であるのに、不思議と工場の中で過ごしたことを振り返るととても穏やかな時間が流れていたように感じる。

それは糸1本、ひと針、と、丁寧なくつしたづくりをしている人たちの誠意が、漂う空気を熱いものから心地よいものへと中和させてくれているのかもしれない。
熟練したものというのは決して熱いだけではなく、人の心を鎮める力があるのだなと思えた。

株式会社野瀬ソックシステム

奈良県北葛城郡広陵町大字笠112番地1

※掲載内容は、すべて記事掲載当時の情報となります。

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