研ぎ澄まされた感覚が生み出すもの (岡田成生さん)

子供の頃は、誰もが絵を描くことを楽しんでいたような気がする。でも、絵を描くのが上手な友人に出会ったり、展覧会で一斉にクラス全員の絵が並べられたものを見て自分の絵を描くスキルの限界を感じ、大人になる頃にはすっかりその楽しみを手放してしまう。
「物心をついたときには、人よりうまく絵を描けることを知っていた」。素直にそう言える彼の描く作品を見たら、そうだ、きっとクラスで一番だったのは彼だったんだろうと想像ができる。

イラストレーター 岡田成生さん

その特技を生かして高校卒業後は美大へ進学。卒業後はCMの制作会社へ一旦就職するが業界が肌に合わないと感じ、1年ほどしたところで教職免許を取得し直して「美術講師」となる。少し意外な印象ではあったが、規則がきっちりとしているいわゆる“お固め”な仕事を多感な二十代にすることで絵を描く時間を持つことができたというのだから、彼のイラストレーター人生においてはきっと不可欠な時間だったのだろう。
そして、少しずつ挿絵を描く仕事が入ってくるようになることと並行して、休暇の合間にバックパッカーとして世界を見ていくうちに価値観の変化が訪れ、「このままイラストレーターとしても生きていける」と思えるようになり、2019年にイラストレーターの道一本へと絞ったのだという。
彼の作品は、息遣いが聞こえてきそうな人物が描かれた水彩画が多い。その再現性の高さから写真の加工なのではと一瞬思うほどの奥行き感がある。

さらに驚かされるのは、これらの作品とは全く異なるクリエイティブもできるということ。お菓子のパッケージに使われるイラストや、キャラクターのデザインなど、とにかく描ける幅が広い。
「予想外の仕事が来ても、これは挑戦だと思って受けさせていただいています。その中で新しい自分のスタイルを発見できるように、常に追求していきたい。」

現状に留まらず、殻を割って新しい描き方・表現方法を模索していく、という意志。クールな印象からは見えない内側に秘めた心構えが、岡田さんの描く絵を生み出す力の源なのだろう。
くつしたの話を聞いてみると、デザインを楽しむことも、気温に合わせて細かく使い分けをすることも、大事にしていることがわかった。足先の感覚までとても丁寧に向き合っている人なのだ。

「職業柄というのもあるかもしれませんが、ファッションも好きなので、着るものを全体のバランスで見ています。くつしたはボトムの裾からの見え方で印象が変わるので、その日の気分や洋服に合わせて色・丈を選んでいます。
足元の温度に敏感だから、くつしたによる微妙な調整もとても大事で。暑い日はもっぱら裸足ですが、特に寒い時期には登山用のくつしたを愛用しています。」

二十代の頃はもっとカラフルなくつしたを履いていた、とも教えてくれた。そういえば、初めてお会いした日も、赤いくつしたがボトムと靴の間からチラッと見えていたのをふと思い出した。

「あまり人から見えなかったとしても、良いくつしたを履くと気分が高揚します。人物のイラストを描くときも、くつしたの色味は重要だと思っていますしね。」
今回、岡田さんにはくつしたのキャラクターのデザインをお願いしている。彼によって生み出された、個性豊かなキャラクターが描かれたパッケージが店頭で見られる日が待ち遠しい。

イラストレーター
岡田成生さん

1984年、香川県小豆島生まれ。
多摩美術大学 グラフィックデザイン学科卒業。映画のポスターやTV番組でのアニメーション、ファッション雑誌など幅広いメディアで活躍している。
2014年 第一回 岡田成生展 (haracchi/東京都世田谷区)
2019年 岡田成生 個展 『帰還Ⅰ』 (二十四の瞳映画村/小豆島)
現在は東京にて活動中。

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