編み物の橋渡し人 (御田昭子さん)

くつしたは編み物であることを忘れてはならない。生地ではなく糸を使って表現されているものなのだ。現代では「編む」ことに触れる機会が減ってしまっていると感じるが、やはりそのクリエイティブに魅了される人がいることも事実である。そんな編み物の世界を若者に教え、世に送り出すことをしている御田さんも若かりし頃に編み物の素晴らしさの虜となった一人である。

学校法人 文化学園 文化服装学院
ファッション工科専門課程 ニットデザイン科担当 講師
御田昭子さん


御田さんにお話を聞くと、服好きにならないわけがないという家庭環境だった。子供の頃から、洋品店をやっていた祖父母に問屋街へ連れて行ってもらったり、母親も娘のオシャレを一緒に楽しみ、手作りで服を用意してくれたそうだ。
家政系の大学へ進学して授業でセーターを編む機会があったそうだが、その時はまだ編み物の世界へ踏み込むことは想像していなかった。その後、現在の職場でもある文化服装学院へ進学。テキスタイルデザインを学ぶために入学をしたのだが、ニットデザイン科の先輩方のショーを観たことで編み物での表現力に衝撃を受けたのが方向転換のきっかけだ。

「作品を観て感動しました。いわゆるパターンを引いて縫って作る衣類と全く異なりオリジナリティが全然違う。こんな表現ができるんだ、と驚きでした。」

大学在学中に教職免許やTESの資格も取得しており、学校の教育・研究できる環境に惹かれ、そのまま助手を経て今は専任講師となった。
作品もいくつか見せてもらった。編み機を使って編み立てたくつした。丸ヨークセーターの身頃部分にも応用できる技法でくつしたの形にしたものだ。
くつしたの編み機で商品として作られるものばかり目にしていたのでとても新鮮だった。

「授業では編み目がわかりやすい色で作っています。でも片足しか作らないので、モノとしては完成させられないんですけどね(笑)。」

担任をしているニットデザイン科のクラスは、本当に編み物が好きな子たちの集まりでもあるため、新しい発見の場に立ち会うこともあり日々新鮮な雰囲気を感じているそうだ。

卒業後、生徒たちはそれぞれ服飾関係の企業へ就職していく。その中でくつした業界へも送り出している。社会の中では同じニットデザイン科の先輩後輩の出会いもあり、学校での学びは一本の糸のようにずっと続いていく。御田さんは生徒たちが社会に出る最終段階として、技術的なことの伝承はもちろん、生徒が一人前になるように見守り、向かい合い、語って過ごしている。
また、学校の外でも活躍の場を持つ御田さん。日本靴下協会が開催している「靴下求評展」では審査員を担当。毎年、各企業が提案する様々なくつしたを見てきている。

そして、プライベートの作品も見せてもらった。娘さんに作った作品たち。
赤ちゃんの時に履かせていたくつしたは手の中にすっぽり収まるサイズで、本当にかわいい。また、カラフルなベストやカーディガンなど、とにかくどれをとっても愛らしい。あらためて作品を見ていると、なぜ編み物に魅了されたのかがわかる。この立体感と形としての不完全さから感じ取れる温もりは、他の何にも表現のできない独特な魅力である。
また、娘さんが通う学童で編み物を教えるという活動もしているそう。
「ゆび編みはルールさえ覚えれば簡単です。黙々と編んでいく姿を見て、子供達の持つ集中力の高さには驚かされます。」
仕事としてだけではなく、身近なところでも編み物に触れる機会を作り出している御田さん。本当に編み物が好きなんだなと感じさせられる。

きっと彼女に教えてもらった子たちは技術のことだけでなく、編み物を楽しむことも忘れない。娘さんも、そんなお母さんを心から自慢に思うだろう。

学校法人 文化学園 文化服装学院
ファッション工科専門課程 ニットデザイン科担当 講師
御田昭子さん

出産前にご主人と楽しんでいたゴルフを家族みんなでまた始めたい、とのことだが、「ドライバーカバーを編みたい」そう。趣味は多岐に渡るが、「美味しいものを食べることや読書も好きだけど、やっぱり編み物が好き!」と笑顔で話す御田さん。

※掲載内容は、すべて記事掲載当時の情報となります。

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