快適なくつしたに欠かせないゴム糸(NDX)

あなたにとって「良いくつした」の定義は何だろう?
答えは人それぞれだと思うが、結局は「履き心地の良いくつした」であると思う。お洒落なくつしたも、お財布に優しいくつしたも悪くは無いけれど、やはり履いていて不快と思わない、ということが前提なのではないだろうか。

子どもの頃は感じなかったのに、大人になるにつれて履き口部分の締め付けが気になるようになったのは誰でも同じことだろう。
そう、履き心地の良いくつしたの条件として、履き口部分の快適さというのはものすごく重要なポイントなのだ。

一般的にくつしたの履き口部分にはゴム糸が挿入されている。(中にはあえてゴム糸を使わないものもあるが)
今は当たり前のことではあるが、その形になる前はガーターベルトと言って、ふくらはぎなどに取り付けるベルトでくつしたがずれ落ちることを防いでいたのだ。
日本国内でこのゴム糸を入れ込んだくつしたを一般化させたのは、ナイガイだった。1933年に開発されたゴム糸入りくつしたは、翌年1934年に「セルフィックス」と名付けられ販売を開始、当時のくつした業界に革命をもたらしたそうだ。また、ゴム糸素材供給を確保するためにナイガイの創業者達は1947年にゴム糸工業の子会社を設立、ゴム糸を自社生産に踏み切り、1948年から海外製ゴム糸を自社製ゴム糸に切り替えた。

ゴム糸の強度や伸び方で、履き口の快適さが左右されるのは想像に難くないだろう。しかし、初期のゴム糸入りくつしたに使用するのは天然ゴム糸だった。履き心地の良いくつしたに仕上げるためには伸縮性と耐久性に課題があった。その頃海外で開発されたポリウレタン繊維は従来の天然ゴム糸に比べて伸縮性は劣るものの耐久性は優れていたため、危機感を感じた当時のナイガイの技術者達は更なる研究を重ねた。
そして1977年、ついに発表されたのがオリジナルゴム糸「NDX」だった。天然ゴムと合成ゴムをブレンドし、伸縮性と耐久性を兼ね備えて8倍の伸縮が可能となったゴム糸。くつしたの履き口の快適さを追い求めた結果生まれた奇跡のゴム糸である。

しなやかに伸び、しなやかに縮むこのゴム糸は、これまで感じていた履き口の苦しさは何だったんだろうと思うほど優しく脚にフィットしてくれる。履いた人はわかるだろう、究極の「履き心地の良いくつした」を追求したらNDXの存在は必須であることが。締め付けすぎず、ずれ落ちず、くつしたが足に寄り添ってくれるのだ。
当初このゴム糸は、神奈川県横浜市の綱島にある工場で製造をされていたそうだ。その頃、綱島工場の周りは田畑が多かったそうだが、市の開発が進み住宅が作られていく過程でこのゴム糸を製造する場所の見直しが起こり、高騰する人件費など未来を見越して海外へ工場を移すことを決断、天然ゴムの生産世界一と言われるタイで2002年から生産を開始した。

綱島工場をただ再現するだけならなんて事ないただの引っ越しであるが、この移設はそんな簡単なことではなかった。機械を日本から持ち込まずに現地で作り直し、新たにNDXを製造できるように少しずつ環境を整えていったのだ。

温度が上がらない、風量が多過ぎる・・・コンディションが日本とは全く異なる中、配合設計を変えてみたり調整し直してみたり、機械の問題をひとつひとつ解決していったそうだ。気が遠くなる作業が続いたが、その繰り返しを経て今は安定的に生産ができるようになったという。
この素晴らしいゴム糸の良さを多くの人に伝えたいという思いで、独占をせず同業他社にも供給をしている。つまりナイガイの製品だけではなく、他の企業が作っているくつしたにもNDXが使われていることがあるということだ。中にはNDXしか使わないと決めてくれている企業もあるそうだ。

今ではくつしたの履き口に加え、その伸縮性と耐久性を活かし男性用アンダーウェアのウエスト部分やレギパン、寝具など幅広く活用されている。あなたの生活の中でも、このNDXが快適さをもたらしてくれているかもしれない。

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