開発はライフワーク(遠藤裕治さん)

くつしたづくりは奥が深い。ただ筒状に編み立てるだけでは駄目。靴や地面との摩擦に耐えうる強さが必要だ。
そして強度だけではない。締め付けて欲しくないけど求められる足へのフィット感、肌に触れる心地よさ。夏は涼しく、冬は暖かく。ニオイも抑えたい。一日の始まりをハッピーにしてくれるデザイン・・・。実に多くのことを考えて作られている。
そんなくつしたづくりに長年、様々な角度から開発に励み続けている人物に話を聞いた。

株式会社ナイガイ 技術開発部 開発課
遠藤裕治さん

遠藤さんがナイガイに入社したときは、くつしたの編機に編み方の指示を出す部分が「まるでオルゴールのような」仕組みの旧式の編機も使用されていた。編み方を変える度に、アナログな方法でパーツを組み替えていたそうだ。新人の遠藤さんは、浜松にあった工場に駐在し、機械を分解・改造して、くつしたづくりのベースからじっくり学んでいったそう。

そこから徐々に「コンピューター編機」という現行の編機にシフトしていき、くつしたの編み方が広がる時代へ移行していったのだが、この頃の経験が今でも生きているのだと遠藤さんは言う。
例えば、履き口部分をより柔らかく仕上げたい、という思いから開発された“ガーゼ編み”。包帯をヒントに、編み方を工夫することで伸縮性を持たせ、より優しいフィット感のものを開発した。
なぜコレが従来のものより柔らかいのか、理屈を聞けば難しいことではないのだが、それを機械で表現していくためには編機の構造を理解していなければ到底思いつくものではないな、と思った。
この編み方は、締め付けが苦手な人に重宝され、長年履き口部分に採用され続けている。
そして、彼が携わったもので特許を取得するまでに至った機能がギュっと詰め込まれたのがこちらの5本指くつしただ。

過去にコラム内で紹介しているこのくつしたは、本来の足指の形に沿って親指と人指し指が離れた形状の“親指セパレート”に加え、土踏まず部分(アーチ)をサポートする“アーチフィットサポート”という機能が組み込まれており、ランニングを趣味にしている人にはもちろん、多くのスポーツ愛好者に指名されているナイガイ自慢の1足でもある。

特にこの指の形状は、フィット感に加えて着脱のしやすさも支持される理由のひとつだ。

「自分が何気なく5本指くつしたを履いた時に、うっかり人差し指が中指の場所に入ってしまって。それをオフィスで話したら『あるよね〜』という会話が生まれて、本来の指の形に沿って編み立てたらもっと着脱が簡単になるのでは?と感じて開発化に至りました。」
そんな自身の体験から作られたこの形が、後に他の5本指くつしたにも採用され、ナイガイが作る多くの5本指くつしたがこの形状となっている。

※5本指くつしたに関しては、開発に携わるスタッフで座談会を行ったのでこちらもご覧あれ!
たくさんの開発商品の話が出てくる遠藤さんの背景について聞いてみると、父親が大工で何でも自分で作ってしまう人だった、とか。遠藤さんの自宅にある家具のほとんども父親に作ってもらったものだというのだから、ものづくり精神は親子で受け継がれてきたに違いない。
「子供の頃、化学の実験が大好きで。その流れで理系の道に進みたくて大学は繊維学部に進学したんです。ナイガイに入社して、技術部・商品企画をずーっと担当してきたのですが、仕事だけでなく、何でも自分で手作りしたくなってしまうので、自分は『開発マニア』だなぁ、なんて思っています(笑)」

この夏には、“はかないくつした”という、くつしたそのものの概念を覆した商品も開発し、クラウドファンディングでの挑戦も成功した。

株式会社ナイガイ 技術開発部 開発課
遠藤裕治さん

くつしたづくりを手掛けて30年以上。社内でも屈指の、ものづくりのエキスパートとして日々研究を重ねている。

子供の頃は父親と釣りを楽しんでいたそうだが、5年前実家に訪れた際に釣り竿を見つけて再開を決意。今では月に2回程度、仲間や80代の父親とも釣りに出かけるのが楽しみだそう。
「仕掛けも既製品だけでなく、餌付きと疑似餌が2個付いたものを試行錯誤して作ってみたりしています!」と、どこまでも開発に余念がない。

遠藤さんおすすめの1足
はかないくつした

クラウドファンディングでも成功を収めた「はかないくつした/SUASiC(スアシック)」
品番6405-001 ¥ 880(税込)

※掲載内容は、すべて記事掲載当時の情報となります。

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